
Guitar is for your Smile / TOMOYOSHI SASAKI
tracks
01:今夜はこのコードから
02:Limited time curry time
03:刻〜
04:The Guitar is for your Smile
05:青より蒼く
06:The Other Side 〜そっちはどうだい?
07:Super Star
08:陽のあたる場所 〜かぶとむし
09:春が来る場所
10:Country Yuina
11:New Horizon
Super Jago Records SHR-001
佐々木朋義がとうとうファーストアルバムをリリースした。現代のギターインストゥルメンタル音楽として一級であるだけでなく、テクニックに溺れず曲のメロディを最大限に活かすこと、リスナーに届けることに心を砕いている。聴き手を選ばない普遍性を持っているということでもあり、これは一朝一夕で辿り着ける境地ではない。
そもそも彼のプレイはギタリストとしては少々珍しいスタイルだ。ギターを弾きまくることで音楽を組み立てたりリードしたりするよりも、まず音楽全体を俯瞰してそこから自分(ギター)が何を弾くかを削り出してゆく。レコーディングしている曲にふさわしいギタープレイを考え出し実音にしてくれる頼れる存在で、実際彼を頼りにするクリエイターは思った以上に多い。
私はいっしょに音を出すようになってから早いタイミングで彼のギタープレイの特色に気付き、ということは録音作品でこそその神髄が最大限に活きるのではないかと考え、早くCDをリリースしてくれ、やりたいこと120%を実現した作品集を作ってくれと事あるごとに懇願してきた。もう10年以上になる。そして2025年、ようやくファーストアルバムが完成した。まずはめでたい。
精力的に続けてきたカラオケ+ひとり弾きまくりギターというスタイルのライヴで折々に披露されてきたから、収録曲の多くはすでに耳にしたことがある。そのはずなのだが改めて曲全体の作り込みの緻密さには舌を巻き、各曲の新しい魅力をゼロから味わうことができる。音楽に対する彼の気配りが毛細血管のごとく隅々まで張り巡らされているのだ。一方でそのメロディーは大らかで、誤解を恐れずに言えば平易でわかりやすい。しかし「これ、歌詞作って人間が歌う方が良いんじゃないか?」という安易な造りではなく、確かにインストゥルメンタルで聴くべき主旋律で、その旋律を演奏するのはギターこそが相応しいと思わせる説得力もある。
もちろん現代のギタリストのソロアルバムとして、テクニカルなギターリフやサンプリングを併用したトリッキーなプレイも随所に盛り込まれて、ギター小僧の食指を動かす部分も少なくない。本当にやりたいことだけをきちんと詰め込んだことがわかる。
それら要素が渾然一体になることで、このアルバムには確かにひとつの強いカラーが宿っている。非常に絵画的、映像的なのだ。映像に携わる人ならどの曲を聴いても具体的なカメラアングルからコマ割りまで即座に脳内を駆け巡るだろう。強くヴィジュアルを想起させてインストゥルメンタル音楽を普段聴かない人にも優しい。そして何度も聴き込むほどに細部に宿る造り手のこだわりを知ることもできる。個人的にはトラック4、6、8、9が特に彩りといいメロディのダイナミズムといい感動的。ライヴでの一過性の高揚感も捨て難いが、録音芸術としてきちんとこれらのメロディが固定されたことが何より嬉しい。本格的に春を迎えるにあたり、街を歩きながら、クルマを運転しながらこのアルバムを聴いてみてほしい。目の前の景色の色彩が、一層濃く、強く感じられることだろう。