2024年6月10日、曉スタジオはnord electro6D 73を新規導入した。これまで長きに渡ってDAW入力やライヴ現場でのメイン鍵盤だったヤマハ S90XSの後継である。思えば自分の旗艦機材の購入はこのS90XSが最後であり、過去ブログエントリーを遡ってみたら、その購入は2009年12月31日なのだった。つまり15年ぶりの刷新である。曉スタジオにとっては大ニュースである。
選定にはもちろん時間をかけたが、決め手になったのは以下の3点だった。
●重量
nordは9.2kg、対してS90XSは22.4kg。衝撃的な重量差である。S90XSは88鍵ウェイテッド鍵盤の総本家みたいなものだから重くなるのは仕方ないし、それを納得づくで購入もした。しかし現場撤収作業中に右肩の筋を痛めるなど、近年もはやひとりでの持ち運びは限界を超えていた。このままではライヴで演奏できなくなってしまう。そういう危機感すらあった。
●素晴らしいセミウェイテッド鍵盤
electro6D 73のそれは「ウォーターフォール鍵盤」といい、オルガンと状態の良い電気ピアノの中間くらいの抵抗感で設定されている。かつて楽器屋さん店頭でこの鍵盤を試奏した際、特にオルガンに向いていると直感した。サスティンペダル無しでのレガート演奏もギリギリまで粘れるし、グリッサンドも躊躇せずできる。こういう鍵盤がオルガンだけでなく、エレピプラグラムの演奏にも良い影響を及ぼすのは必定で、なんというか、ウォーターフォール鍵盤だからこそ可能なフレージングというのがあるのだ。ここまで気持ち良いとアコースティックピアノプログラムの演奏にはやや軽過ぎるという瑕疵もスルーできる。
●物理ドローバー搭載
上記の優れた鍵盤があればこそ、物理ドローバーを備えていることにも意味がある。自分にとってオルガンサウンドはもはやシンセのプリセットリストの中の一群ではなく、直感的に音作りをしつつ音楽の中の居場所を探す、かなり有機的な電気楽器のひとつなのだ。それには物理ドローバーが不可欠で、効きの良いレズリースピーカーシミュレーターも、アンプシミュレーターのオーバードライブによる歪みも、積極的に「その場その場」でON/OFFを操作していきたくなる。ちなみにこれは購入後に気付いたのだが、別売りアクセサリとしてレズリースピーカー用ハーフムーンスイッチがあり、よりハモンド B3ライクな操作でslow/stop/fastを切り替えられる。欲しい。
加えてサスティンペダルの極性は自動判別だという。曉スタジオのヤマハ FCシリーズは特に設定もなしに正しく認識された。万一自動判別されない場合もシステム設定内に極性の手動設定機能もある。一方でピッチベンドとモジュレーションコントローラーの非搭載は購入当日の最後の試奏時に気が付いた。迂闊だった。nordシリーズのピッチベンドスイッチ、モジュレーションホイールは「登場以前/以後」と言えるくらい画期的な仕様なのだから、ぜひ搭載して欲しかった。
出力される音は、購入初日から弾きまくりたくなってしまうような上質なもので、前任S90XSの音質と異なり、キーボードアンプやサウンドシステムに送った時にきらびやかさを増す傾向がある。すでにnordシリーズの音は巷に溢れていて没個性的と言う人もいるかもしれないが、システムの中で抜けが良い楽器は今でもそう多くない。赤い鍵盤楽器ユーザーの仲間入りができて嬉しい。がんがん弾き倒す所存であるからよろしく頼むぜ、electro6D 73!