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演劇ユニット石川組「隣の人々 静かな駅」音楽制作ノート

劇伴制作裏話

· 音楽制作

演劇ユニット石川組「隣の人々 静かな駅」公演に音楽で参加した。

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情宣デザインは制作室アーム・小関歩氏

石川裕人さんの薫陶を受けた面々が、裕人さんが鬼籍に入った今でも、その胞子を育てようと努力する姿を見るにつけ凄い人だなぁと思わずにいられない。この作品はもともと1995年に初演されたもので、裕人さんが30歳くらいの頃の作品だという。人の生死を扱う作品を、そんな年齢の頃に書いていたという辺りにも凄みを感じてしまう。

脚本を読んで、演出家とあまり詳しい打合せをせずに制作に入り、舞台本番は音源を音響オペレーターが再生するという参加方法だから、本番当日、私は観客として観ることになる。だから観劇の感想を書こうと思えば書けるのだが、稽古や細かい打合せや修正を経験してしまった以上、一般の観客のそれとは違ってしまうことを免れない。なので観劇の感想ではなく、音楽制作の裏話のようなものを書く。

芝居の内容はセット変えはなく、登場するのは駅のプラットフォーム1箇所である。出演者も3名+1名というシンプルかつストレートなもの。従って音楽もたくさんの楽器が入り乱れるラージアンサンブルではなく、シンプルな旋律と編成と演奏として着想した。音楽が入ってくる箇所は指定されており、特に「夏の思い出」は曲名指定だった。今回私が演奏したのは3曲である。

1.夏の思い出
登場人物のセリフに呼応する曲が冒頭に出てくる。合唱曲いうイメージがあるが、もちろんこの芝居には似合わない。鍵盤ハーモニカの独奏。実際に本番でステージの空気とともに音源が再生されてみると、フレージングはもっともっと朴訥で良かったのではないかと思った。

2.メインテーマ
このメインテーマは3つのパートでできており、通して弾いたバージョン、切り分けたパートごとのバージョン、そのバリエーションと4つくらいの音源として納品した。どの場面でどのバージョンを使うのも演出さんのお好みでどうぞ、という手法だ。これは裕人さんといっしょに作っていた頃に大きな成果を上げた手法でもある。基本的にはひとつの曲だから、場面ごとにアクセントをもたらすこともできるし、同時に一定の統一感も醸し出せる。

3.マーチ・オブ・デス
登場人物のセリフに「楽しげな」とか「元気よく」と、聴こえてくるマーチを評する箇所がある。このマーチには手こずった。そもそもクライマックスのこの場面、死にゆく人に聴こえてくる音楽がなぜマーチ?なぜ楽しげ??これは音楽を作る立場としてはナゾかけを挑まれているとしか思えない。

いろいろ考えて「死者が聴いて楽しい音楽」は生者のそれと正反対なのではないか?と思い至った。つまり元気よくもなければ楽しくもないマーチを作れば良いのだ。死者の耳や脳みそは、もはや生者のそれとは違うのだ。そう着想してからは音作りは早かった。

納品後、稽古が進むにつれて演出や役者のセリフのテンポなどがどんどん変わっていった。その結果尺(曲の長さ)や展開などがまったく芝居と合わなくなり、2度のリテイクを経た。音源納品というスタイルだとどうしてもこういうことは起こる。

今回の公演で演出を担当されたヨコマコさんこと横山真さんは、芝居と音の関係を考えるのが大好きなのだという。マーチの最初のリテイク後(だったろうか)、どれくらい曲の中に展開部分を作るか、また曲の終わりをどう処理するかと言った、細部に渡る大まじめなディスカッションができたのは楽く、音楽担当者が芝居という大きなパズルのワンピースになった実感が持てた。観劇してくださったお客様、役者のみなさん、関わったすべてのスタッフのみなさん、ありがとうございました。

おまけ

公演後、ピアノソロで演奏する機会があったので録音してみた。iPhone 6Plus+VoiceMemo.appなので音質は良くないが、臨場感だけはある。